退屈な夜長に御伽噺をどうぞ

未来の小説家が、退屈を紛らわせるような小説を書いています!

ヘンゼルとグレーテル

 むかしむかし、ある山奥にヘンゼルとグレーテルという兄妹が、両親とともに住んでいました。この兄妹はとても仲が良く、いつもヘンゼルがグレーテルの手をしっかりと握って行動していました。

 二人のお父さんは木こりをしています。二人はお父さんのことが大好きでした。お父さんはうまくいったら頭をなでながら褒めてくれます。失敗したら本気で叱ってくれます。そして、口癖のように二人にこう言い聞かせます。

 

「どんな時でも諦めずに考え、行動しなさい。その行動は無駄にならない」

 

二人はこのことばの本当の意味はよく分かっていませんでした。でも、大好きなお父さんが言っているので、大好きなことばでした。

 そんな二人ですが、お母さんのことはあまり好きにはなれませんでした。

 お母さんはあまり二人に接することがなく、話しかけられても素っ気なく返すだけでした。

 

 

 ある夜、ヘンゼルはなかなか眠ることができずにいました。すると、お父さんとお母さんが話しているのが聞こえました。

「どこもかしこも不作が続いてる。このままじゃ食べるものが無くなって飢え死にしてしまう」

「でも、これ以上節約することなんてできないわよ」

「いったいどうしたらいいんだ……」

 

 ヘンゼルは今まで聞いたことのない父の弱々しい言葉に驚きました。しかし、さらに驚くことが起こりました。

 

「あの子たちを捨てるのはどうかしら?そしたら少なくとも私たちは助かるわ」

「何を言ってるんだ!!自分たちの子どもを見捨てるというのか!」

「自分たちの子どもって言っても所詮捨て子でしょ?あなたが勝手に拾ってきたんじゃない?」

「拾ってきた時、一緒に育てて欲しいって言ったら了承してくれただろ!?」

「あの時と今じゃ状況が違うもの。子どもを助けようとしてみんな飢え死にました、じゃどうしようもないでしょう?いいじゃない?元々捨て子だったんだから、また捨てられたって元に戻るだけよ」

「……いや…でもな………」

「私はあなたのことを一番に思ってるのよ。誰よりもまず、あなたに助かって欲しいの。だから、お願い!」

「いや………そう言われてもな……」

 

 その日はそれで話し合いが終わりました。

 ヘンゼルは自分たちが捨て子だったということだけではなく、母親が自分を捨てようとしているということまで知ってしまいました。ヘンゼルはどうしていいか分からなくなってしまいました。しかし、話が終わった後に母親がお父さんには見えないところで見せた、苦虫を噛み潰したような表情が頭に焼き付いていました。その表情から母親は本気で自分たちを捨てようとしていると感じ取りました。

 ヘンゼルは泣きたくなって自分の布団に戻りました。そこに隣でスヤスヤと聞こえてきそうなほど安らかに眠っているグレーテルがいました。その顔を見た途端、ある感情がヘンゼルの心に湧き上がってきました。

 

(グレーテルを守らなくちゃ!)

 

 兄として妹を守るという覚悟を決めました。すると、頭の中に父のことばが響きました。

 

“どんな時でも諦めずに考え、行動しなさい。その行動は無駄にならない“

 

 ヘンゼルはどうしたらいいか考え始めました。

 

「そうか!」

 ヘンゼルはある考えを思い付きました。

 

 

次の日、ヘンゼルは一日かけてポケットいっぱいに入るくらいの量の白い石を集めました。

「おにいちゃん。こんなに石を集めてどうするの?」

 グレーテルが問いかけました。

「お父さんの言う通りに考えて行動してみたんだ。きっとこれが役に立つよ」

 グレーテルは何のことだか分からず、首をかしげました。

 

 さらに次の日。ヘンゼルとグレーテルは母親に話しかけられました。

「お父さんがお弁当を持っていくのを忘れたみたいなの。今から届けに行くからあなたたちもついて来なさい」

 ヘンゼルは、ついに来たか、と思いました。

「分かりました。ただ、出かける準備をしたいのですがいいですか?」

「四○秒で支度しなさい」

 

 ヘンゼルは拾っておいた石を全部ポケットに詰めて行きました。

 

 母親のあとをいつもとは違い、グレーテル、ヘンゼルの順で歩きます。ヘンゼルは一番後ろを歩きながら、拾っておいた石を母親に気付かれないようにこっそりと落としています。

 山を二つ越え、三つ目に入りました。二人はこんなに遠くまで来たことはありません。

 大きな岩がある所まで来ると、母親が二人に向かって言いました。

「よく歩いたわね。疲れたでしょう。お父さんはもう少し先にいるけど、ここからは私一人で行くわ。あなたたちはここでお弁当を食べて、待っていなさい」

 母親はパンを一つずつ手渡しました。そして、なぜか来た道を戻って行きました。

 ヘンゼルとグレーテルはパンを食べ始めました。食べ終わると歩いてきた疲れが出て、その場で身を寄せ合って眠ってしまいました。

 

 目を覚ますと、辺りは真っ暗になっていました。

 グレーテルは泣いてしまいました。

「……どこ…ここ……?…おとうさん……おとうさーーん!!」

 グレーテルの声は夜の闇に吸い込まれていきました。

 涙で濡れたグレーテルの手をヘンゼルがしっかりと握りました。

「大丈夫!お兄ちゃんが絶対家まで連れて帰るから!」

 ヘンゼルはグレーテルの手を引いて歩き出しました。何を目印に歩いているかというと、来るときに落としてきた石です。ヘンゼルが落としてきた白い石が、月明かりを反射して光り輝いていました。それはまるで、星たちが列になって二人を導いているかのようでした。

 

 二人は夜通し歩き続けました。そして、すっかり朝になった頃、お父さんが待つ家へと帰りました。

「ただいまー!」

 グレーテルは大きな声を上げて家に入りました。

 すると、すぐに五歳は老けたような顔をしたお父さんがやってきました。

「ヘンゼル!グレーテル!無事か!……よく帰ってきたな!」

 お父さんは泣きながら二人を抱きしめました。

 母親は、一瞬顔を曇らせましたが、すぐに心配の表情を貼り付けてやってきました。

「気づいたらいなくなってて心配したのよ。でも、無事に帰ってきてくれて良かった」

 その日、ヘンゼルとグレーテルは安心して眠りました。

 

 

 そこから十日が経った頃、再び母親は二人に言いました。

「また、お父さんがお弁当を持っていくのを忘れたみたいなの。届けにいくから二人も着いていらっしゃい。」

 ヘンゼルは焦りました。

(これは、またぼくたちを捨てようとしているに違いない。でも、今日は石を準備できていない……)

 

 ヘンゼルは諦めそうになりました。しかし、頭の中に父のことばが響きました。

 

“どんな時でも諦めずに考え、行動しなさい。その行動は無駄にならない“

 

 ヘンゼルは考え始めました。

 

「そうか!」

ヘンゼルは、ある考えを思いつきました。

 

 出発の直前、ヘンゼルは母親に向かって言いました。

「あの、自分たちのお弁当は自分で持ちます」

「確かに、その方がいいわね」

 母親は二人にそれぞれのお弁当のパンを渡しました。

 出発すると、前と同様に、母親、グレーテル、ヘンゼルの順で歩きました。

 一番後ろを歩くヘンゼルは、自分のパンを少しずつちぎって道に落としていきました。

 しかし、この時のヘンゼルは自分たちの後ろを飛んでいる、雲一つない青空のような色をした小鳥に気付いていませんでした。

 

 山を三つ越え、さらに四つ目の奥深くまで来て、母親は立ち止まりました。

「よく頑張ったわね。お父さんはもう少し先にいるから、ここからは私一人で行くわ。すぐに戻ってくるからここで待っていなさい」

 そう言って、なぜか来た道を戻って行きました。

 二人は近くにあった大きな木の幹に寄りかかるようにしてお弁当のパンを食べ始めました。

「どうして、おにいちゃんのパンはもうそんなに小さくなってるの?」

 グレーテルが尋ねました。

「来る途中にお腹を空かせた小鳥がいて少しあげたんだ」

 ヘンゼルはグレーテルに真実を話すことができず、そう言ってごまかしました。

 

 二人は食べ終わると、また身を寄せ合って眠りました。

 そして、目を覚ますと辺りは真っ暗になっていました。

 グレーテルは泣き出しました。しかし、ヘンゼルはグレーテルの手をしっかり握って言いました。

「大丈夫!お兄ちゃんがいるから!」

 そして、手を引いて目印のパンを探して歩き出しました。しかし、そのパンは見つかりませんでした。どれだけ歩き回っても見つかりませんでした。

 ヘンゼルたちの後ろを飛んでいたあの小鳥が全部食べてしまっていたのです。

 そんなことは知らないヘンゼルは、パンがどれだけ探しても見つからないので、どんどん不安になっていきました。終いには、泣き出してしまいました。そんなお兄ちゃんを見て、グレーテルも一層泣いてしまいました。

 

 二人は手を繋いだまま、泣きながら夜の森の中を歩いていました。

 

 

 もう、どれくらい歩いたでしょうか。暗闇の中では時間など分かりません。

 ヘンゼルとグレーテルは泣きに泣いて、もう涙は頬で乾いていました。

 すると、甘い香りが二人の鼻をふわっと撫でました。

 二人は顔を合わせてその甘い香りのする方へ向かうことにしました。木々をかき分け進んでいくと、開けた場所に出ました。そこには家が立っていました。それもただの家ではありません。おかしで作られた家でした。壁はビスケットでできていて、チョコのドアに透明なアメで作られた窓、そして屋根はクリームがたっぷりとかかったスポンジケーキでできています。

 二人はお弁当のパンを食べたきり、何も食べていなかったので、とてもお腹が空いていました。そして、飛びつくように人の家を食べ始めました。空腹だったこともあり、それらは一生忘れられない味でした。

 

 しかし、二人が夢中になって食べていると、チョコレートでできたドアが開きました。

「誰だい!?こんな時間に、あたしの家を食べているのは!!」

 家の中から、腰と鼻が大きく曲がり、紺色のローブに同じ色のつばの広い三角帽子をかぶった、白髪が肩まで柳のように伸びた老婆が現れました。

 そのあまりの剣幕にグレーテルはヘンゼルの後ろに隠れました。しかし、ヘンゼルは老婆に向かって言いました。

「か、勝手に家を食べてしまってすいません。で、でも僕たち何も食べてなくて、とてもお腹が空いていたんです!」

 

 老婆は二人の顔を見ると、ニヤリと黄ばんだ歯を覗かせました。

 

「それはそれは、大変だったねぇ。この山には、迷子や捨て子がとても多くてねぇ。あたしはそんな子どもたちを世話してるんだよ。だから、安心していい。お前たちもちゃんと面倒見るからねぇ」

 そう言うと老婆は、まるで嵐の前のように静かな家の中へと二人を招き入れました。

 

 

翌朝、グレーテルは目を覚ましました。しかし、いつも隣にいる兄の姿がありません。

「お目覚めかい?お嬢ちゃん」

 老婆が片頬で笑っていました。

「あ、あの……おにいちゃんは……どこにいるんですか?」

 グレーテルがか細い声で聞きました。

「ケケケッ!着いてきな。すぐに会えるから」

 グレーテルは老婆の後について家の外に出ました。すると、そこには昨日はなかった、グレーテルの背より一回りは大きい石でできた箱がありました。その箱には一箇所だけ片腕なら通せるくらいの穴が空いていました。その箱の中から声が聞こえてきます。

 「なんだここは!?ここから出せっ!」

「おにいちゃん!?」

「その声…グレーテルか!?大丈夫なのか!?」

「あたしは大丈夫。でも、おにいちゃんは……」

 グレーテルの最後の言葉は声になりませんでした。

 

「ケケケッ!兄妹の感動の再会だね〜」

「その声……、お前は何者だ!?」

「あたしは、ここに住む魔女だよ。おかしの家で子どもをおびき寄せてこうやって捕まえてるんだよ。あとは丸々と太らせて食べるだけだよ。ケ〜ケッケッケッ!」

 魔女は口を大きく開けて笑いました。

 

「さてと、小娘、あんたにはやってもらうことがある。さっさと来な!」

「……いやだっっ!!…おにいちゃん!!……」

 魔女は泣いているグレーテルを無理やり引っ張って行きました。

 

再び家の中に入りました。まだ、グレーテルは泣いています。

「…おにいちゃん……。…おにいちゃん……」

「いつまで泣いてんだよ!さっさと泣き止まないとあんたから食っちまうよ!」

 グレーテルはまた怖くて泣きそうになりましたが、なんとか堪えました。

「それじゃあ、あんたにはあの小僧を太らせるための料理を作ってもらうよ」

「な、なんで、料理を…作る必要が…あるんですか?この家には…お菓子が…たくさん…あるじゃないですか?」

「バカ言ってんじゃないよ!お菓子なんかで太った不健康な肉は不味いんだよ!ちゃんと栄養のある野菜で太らせなきゃ美味くなんかならないんだよ!」

 

 グレーテルは恐怖でもう何も言えず、ただ魔女の言うことに従って料理を作りました。

 

 

 足元には数本の骨が落ちています。ヘンゼルはそれを拾い上げ、手の中でいじくりながら冷たい石の壁を見つめていました。

すると、魔女が近づいてくる足音がします。

「料理を持ってきたよ。しっかり食べるんだよ!」

 そう言うと、唯一空いている穴から、新鮮な野菜のサラダと豆の入ったスープが差し入れられます。ヘンゼルがそれらを食べ終えると穴から器を差し出します。すると、魔女の腕が穴から中に入ってきます。そして、ヘンゼルの腕を掴み、じっくりと触っていきます。触り終えると魔女の腕は穴の外の光に吸い込まれていきます。

「もう少し、太らせないとねぇ」

 魔女はそう呟いて、立ち去っていきます。

 これが今のヘンゼルにとっての食事でした。そして、その食事を三回することだけが、今のヘンゼルにとっての一日でした。今のが九回目なので、捕まってから三日が経ったということです。

 

(……もう…ダメだ…。…きっと…このまま……食べられるんだ……)

 

その時でした。父のことばが頭の中に響きました。

 

“どんな時でも諦めずに考え、行動しなさい。その行動は無駄にならない“

 

 ヘンゼルは再び、考え始めました。

 

(魔女は俺をここに閉じ込めて、太らせてから食べようとしている。ここからは自力で脱出はできない…………。そうか!)

ヘンゼルはある考えを思い付きました。

 

次の日。十回目の食事の時間がやってきました。ヘンゼルはいつも通り出された料理を食べました。そして、魔女の手が中に入れられた時、落ちていた骨を触らせました。

「うん?なんだか昨日よりも痩せている気がするね。まるで骨みたいだよ。明日からはもっと量を増やそうかねぇ」

 魔女はそう言って立ち去っていきました。

 

(やった!)

 ヘンゼルはひとまずほっとしました。

 

 ヘンゼルは太ったと思われなければすぐに食べられることはないと思ったのです。これは見事に成功しました。ヘンゼルは何度も何度もこの手を使いました。

 

 しかし、次第に魔女のフラストレーションが溜まっていきました。

 

 

 三十回目の食事のあと、つまり十日が経った夜、グレーテルは自分の仕事を終えてベッドに入っていました。グレーテルは、自分が料理を作っているうちはおにいちゃんは生きている、と分かっていても心配でたまりませんでした。そして、心細さからすぐには眠れなくなっていました。すると、魔女が大きな独り言を言っているのが聞こえました。

「まったく、なんであの小僧は一向に太る気配がないんだい!?もう、我慢できない!明日、あの小僧を食ってやることにしよう」

 グレーテルは魔女の言葉を聞いてとても強い恐怖に襲われました。

 

(明日、おにいちゃんが食べられちゃう!そんなのイヤだっ!……でも…私なんか、何もできない……)

 

 その時、グレーテルの頭の中に父のことばが響きました。

 

“どんな時でも諦めずに考え、行動しなさい。その行動は無駄にならない“

 

グレーテルの目から涙がこぼれました。

 

(…でもっ!……でもっ!……おとうさん……私…どうしたらいいの……?)

 

 グレーテルはそのまま眠ってしまいました。

 

 翌朝、グレーテルは魔女によって起こされました。

「小娘っ!さっさと起きなっ!今日の料理はいつもと違うよ!ついに、あんたの兄ちゃんを食べる日が来たんだよ!あんたの兄ちゃんは丸焼きにして少し塩を降って食べるのさ。これが若い小僧を一番美味しく食べられるんだよぉ!ケ~ケッケッケッ!」

 魔女は不気味な光を目に宿し、舌舐めずりをしながら言いました。 

 グレーテルは怖くて怖くて仕方がありません。

「だから、今日の料理の準備はカマドに火を起こしておくれ!とびきり熱くしておいてくれよぉ」

 

 グレーテルは今日になって現れたカマドに行きました。そのカマドは石窯で戸もついています。グレーテルは火を起こしました。どんどん薪を入れ、とびきり熱くしていきます。

「グレーテルや。火の調子はどうだい?」

 魔女がやってきました。すっかり上機嫌です。

 

 その時でした。

 

(そうか!)

 グレーテルは閃きました。

 

 グレーテルは魔女に向かって言いました。

「すいません。火の強さがどれくらいか分からないので見てもらえますか?」

「いいさ、いいさ、それくらい」

 すっかり上機嫌な魔女はカマドに近づき、顔を中に入れて火の強さを見た、その時でした。

 グレーテルは後ろから魔女をおもいきり突き飛ばし、燃え盛る火の中に入れました。そして、すぐに戸を閉めて、かんぬきをかけました。

 

「ぎぃやぁぁーーー!!」

 

 カマドの中からは魔女の叫び声が聞こえてきます。

 グレーテルは力が抜けて、その場で座り込んでしまいました。

 

 魔女の叫び声が聞こえなくなった時、ヘンゼルを閉じ込めていた石の箱が粉々に砕けました。魔女の魔法が解けたのでしょう。

 ヘンゼルが出てきて、グレーテルのもとに駆け寄りました。

「グレーテルっ!無事かっ!」

「おにいちゃんっ!おにいちゃんっ!!」

 兄妹はようやく再会することができました。

 

 

 再会を喜んでから少し時間が経ちました。グレーテルが言いました。

「ねぇ、おにいちゃん。魔女からは助かったけど、ここからどうやって帰るの?」

「う、う〜ん」

ヘンゼルは困ってしまいました。

 

ヘンゼルは父のことばを思い出しました。

 

“どんな時でも諦めずに考え、行動しなさい。その行動は無駄にならない“

 

 しかし、今度ばかりはヘンゼルがどれだけ考えても、どうしたらいいか分かりませんでした。

 すると、そこに目の覚めるような青色をした小鳥が飛んできました。そして、ヘンゼルに話しかけました。

 

「やっと、見つけることができました」

 

 ヘンゼルは何のことだか分かりません。

 小鳥は話し続けます。

「わたくしはあなたに助けていただきました。わたくしがお腹が空いて死んでしまいそうな時、あなたがまいていってくれたパンを食べることで生き延びることができました。なので、何か恩返しをさせてください」

 ヘンゼルは応えました。

「じゃあ、家までの帰り道が分からなくて困っているんです。家まで案内してもらえませんか?」

「お安い御用です。わたくしについてきてください」

 二人は小鳥について行きました。

 

 ヘンゼルの行動は無駄にならなかったのです。

 

 

 ヘンゼルとグレーテルはようやく家に到着しました。

 

「ただいま!」

 

 元気よく家に入るとそこにはお父さんだけがいました。

 

「……ヘンゼル…?…グレーテル!?」

 

 お父さんは白髪が増え、やつれてしまっていました。しかし、二人の顔を見ると、痩せて弱々しくなった腕で力強く抱きしめました。

 

「……よく……無事だったな……。元気に…帰ってきてくれて……ありがとう」

 

 そして、ヘンゼルとグレーテルはお父さんと仲良く暮らしました。

 

めでたし、めでたし。