退屈な夜長に御伽噺をどうぞ

未来の小説家が、退屈を紛らわせるような小説を書いています!

夢幻鉄道~ロトとヒューマ~

これは、作・西野亮廣の『夢幻鉄道』の二次創作です。

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今日もモニターに映る、町中から送られてきた画像をチェックする。

 

ボクの名前はロト。とても高性能で自我を持ったロボットさ。見た目はボクらの先祖をつくったニンゲンに似ているけど、カラダの中は機械でできているのさ。もちろん、成長もするよ。毎年自分の製造日がきたら部品を足していって、二十年で完成するんだ。え?最初から完成させたらいいじゃないかって?それができないんだよ。高性能すぎて自我がニンゲンとほとんど同じなんだ。だからゆっくり成長していくんだよ。それに合わせないとカラダをうまく使いこなせないんだ。

 

この町はそんなロボットしかいない町、ロボットタウン。なんで、ニンゲンがいないかって?それはニンゲンが争ってばかりいるからだよ。ボクらの先祖も最初は戦うためにつくられたんだって。それが嫌で、逃げ出してこの町をつくったんだ。

 

ボクらロボットとニンゲンの一番の違いは、寝ているときに夢を見るかどうか。ロボットは寝たら何も起こらないけど、ニンゲンは寝たら夢ってやつを見るんだよね。昔は夢幻鉄道っていう、誰かの夢の中に行けるものがあったみたいだけど、今じゃそんなのは聞いたことがないな。

 

ちなみに、ロボットにも将来のユメはあるよ。ボクの将来のユメは、争いごとのないこの町を守り続けること。だから、今の自分の仕事を誇りに思ってるんだ。

ボクの仕事はロボット判別委員会の一員。毎日正午にロボット判別テスト、通称ロボットチャレンジをするんだ。ロボットチャレンジっていうのは、お題と九枚の画像をそれぞれが持っている端末に送って、画像の中からお題に沿うものだけを選ぶっていうものなんだ。これは、なぜかロボットには全部当てられなくて、全問正解者はニンゲン判定をしてこの町から追放するんだ。こうやってニンゲンを排除して、この町を守っているんだ。

 

コン、コン、コン

 

ドアをノックする音が聞こえた。

「どうぞ」

ドアを開けて現れたのは、懐かしい顔だった。

「よぉ、ロト!」

「ヒューマ!久しぶりだな!」

「おう!元気だった?」

「もちろん!そっちは?」

「変わらずだよ」

「よかった」

 

この男はヒューマ。ボクの幼馴染だ。仕事は旅商人をしているらしく、ほとんどこの町にいない。

 

「なぁ、ロト。久しぶりだし、お茶でもしない?」

「もちろん、いいよ!」

ボクはヒューマと二人で部屋を出ていった。

 

 

「我々は、ロボットの、ロボットによる、ロボットのための政治をします。そして、我々ロボットで手を取り合って、この町をより美しくしていきます!」

 

ボドロー町長の演説を横目に、行きつけのカフェを目指す。カフェは混んでいる時間帯だったが、待たずに座ることができた。二人ともお気に入りのカカオオイルを頼み、昔話に花を咲かせていた。

 

「二人で遊んだときさ、ロトが思いっきり転んで、頭のネジが外れた!って言って大騒ぎしたことあったよね?あれ、大変なのになんか面白くて笑っちゃったんだよね~」

「ひどくない!?めっちゃ焦ったんだよ!あのネジが外れると手がうまく動かなくなって、いつの時代のロボットだよ!みたいになるんだからね」

「それがまた面白くて」

「ひどっ!!」

そんな話ばかりして時間が経ち、ロトとヒューマはその店で別れました。

 

 

その日の夜、ロトは帰り道を歩いていると、いつも通っている道に見慣れないレールがありました。レールの先を見ていくと、途中で地面から浮き上がり空に向かって伸びています。

 

「これはいったい、どういうことだ!?」

 

道に突然レールが敷かれているだけでなく、空に繋がっている……。

ん?何かがレールの上を通って近づいてくる。

 

それはみるみるうちに近づいてきて、その姿がはっきりとわかるようになりました。それは艶のない黒色をした蒸気機関車でした。それはだんだんスピードを落とし、ロトの前で止まりました。

 

どういうことだ……。空から蒸気機関車……。…!もしかして、これが夢幻鉄道……?だとすると、この町に夢を見ているニンゲンがいるのか!?これは行って確かめないと!

 

ロトは夢幻鉄道に乗りました。車内はレトロな雰囲気があります。

 

 

出発してからかなりの時間が経ちました。乗客はロトの他に、帽子を深くかぶって顔が見えない一人だけです。

 

あいつもニンゲンはなのだろうか?……いや、ここは、まずこの夢を見ている張本人を確かめよう。

 

まもなく終点です。お忘れ物に気を付けてお降りください

 

ロトが夢幻鉄道から降りるとそこは森の中でした。自分よりはるかに高い木が林立しています。そして、木々の隙間から木漏れ日が降り注ぎ、幻想的な空間になっています。ロトは歩き始めました。

 

ここが、夢の中なのか…。夢の中はこんなにも美しいものなのか…。

 

ロトがしばらく歩いていると、あるものが目に入りました。

木の上に家がある!あれは本で読んだことがある、ツリーハウスってやつか。この夢の主は本物を見たことがあるんだなぁ。

 

ロトが森を抜けると、辺りは急に変わり、大きな道の両側に店が並ぶ夜の街になっていました。

すごいな、ここは……。どの店もネオンライトでビカビカ光ってるし、カラダの内側が振動する音楽が町中に響いている。でも、町中の人が音楽に合わせて楽しそうに踊っている。

 

ロトがその街を抜けると、また景色が変わり、次は街の中に水路が通っている街に変わりました。

また、ここはすごいな…。水路があり、家のすぐ横をボートが通る。この非日常感がすごいな!

 

ロトが歩いていくと、大きな円形の広場に出ました。そこからはたくさんの道が伸びていて、多くのヒトが集まっています。

 

ここが街の中心なのかな?人多いし…。

 

 

ロトは突然、立ち止まりました。

 

……えっ……。あれって……?

 

 

 

「おーい!ロトっ!急げよ~」

「待ってよ、ヒューマ!あっ……うわぁっ!!」

少年ロトが転んで頭を打ちました。

「大丈夫か!」

「いてて…。う…うん。……あ、あれっ?手が思うように動かない!きっと、頭のネジが外れたんだ!お願いっ!探して!」

「……ぷっ、ぷはははっ!変な動きだな、それ!」

「笑うなんてひどいよっ!」

「い、いや~、ごめん、ごめん。すぐ探すから」

 

 

 こ……この話が……夢に…出るってことは……この…夢の主は……

 

「…ロト……」

 

後ろから呼ぶ声がしました。振り返るとそこにはヒューマがいました。

 

「……ヒューマ……これって……」

「あぁ、ここは俺の夢の中だよ」

「ヒューマの…夢ってことは……」

「あぁ、俺は人間だ」

「そ…そんな……、ヒューマが……ニンゲンって……」

「なぁ、ロト。知っちまったからには、俺のことを報告してくれ」

「そんなこと、できないよ!友だちを追放させるなんてできない!」

「追放しないならどうすんだよ!」

「キミのことはボクが隠し続ける」

「そんなの無理だ!!もし、ばれたら大変なことになるんだぞ!!他のロボットとお前とじゃ、隠しているっていうことの重さが違う!!」

「大丈夫!ばれても記憶が消されるくらいだから。キミの追放は、ほとんど死と同じなんだよ!」

「俺は……俺は……お前に……忘れられるなんて……絶対嫌だ!」

ヒューマは大粒の涙を流しながら言いました。

 

こんなときにニンゲンは涙を流すのか……。

 

 

「ロトくん」

後ろから、優しく力強い声がしました。振り返ると、そこにはボドロー町長がいました。

「町長!いやっ、あのっ、これには、深い理由がありまして……」

ボドロー町長はロトの前を通り過ぎ、ヒューマの前に行きました。

「ヒューマくんといったかね?」

「はい」

ヒューマは全てを受け入れたように、町長の目を見ていました。

「それではヒューマくん。私の町づくりを手伝ってくれないか?」

「………えっ……?」

ロトとヒューマが同時にマヌケな声を出しました。

「な、な、なんでですか!?」

「いや、実はね、私もキミの夢の中を見てきたんだ。そしたら、ここにあったものはどれもこれも美しかった。あの森もそう、街でみんなで踊って笑っているのもそう、この街だってそうだ。ニンゲンは感情的すぎて争ってしまうかもしれない。でも感情的だからこそ、我々ロボットではつくれない、感動する美しいものがつくれるんだとわかったんだ。ロボットとニンゲン、敵対し合う関係はここで終わらせて、対話し手を取り合っていく世界を未来に残したいと思ったんだ。だから、ともに、本当に美しい町づくりをしてくれないか?」

「もちろんです!」

「やったね!ヒューマ!」

ロトがヒューマに抱きつきました。

「ロトくんには、ヒューマくんの友だちとして一緒にバリバリ働いてもらうからな」

「わかりました!」

ロトは太陽のように笑いました。

 

 

そんな三人のもとへ、夢幻鉄道がやってきました。

 

「もうすぐ、起きる時間みたいだ」

「でも、すぐ会えるよね」

「あぁ。……今日は、はじめて安心して目覚められそうだ」

 

ロトはヒューマと一時の別れをして、町長と夢幻鉄道に乗りました。夢幻鉄道は走り出しました。それはまるで、願いを叶える流れ星のように走り去っていきました。